2015年5月31日日曜日

漆は偉大。

   現在の尺八の多くは竹の内側に漆を塗って加工されています。漆は植物のウルシの樹液です。ご存知の方も多いと思いますが厄介なこと漆は被れを引き起こすことがあります。体質的に弱い人はウルシが生えている近くを通ったり、漆を用いて加工している場所に入るだけで被れてしまうそうです。

   かく言う自分も漆に弱い体質で、出来て間もない尺八を吹くと歌口の跡が口元に赤く残ってしまいます。こうなると痛くて痒くて尺八の演奏にも支障が出てしまいます。

   尺八を作る職人さんの間では漆への耐性を付けるためにウルシを舐めながら作業をする(!)なんて話を聞いたこともあります。

   漆は湿度が高くなると乾燥するという性質を持っています。この事から尺八のように息を吹き込む楽器を丈夫に保つ為に無くてはならない素材です。また漆器は日本を代表する工芸品で、夏場には湿度の高くなる日本にとっては音楽だけで無く工芸の分野でも無くてはならない存在です。

  体質によっては厄介な存在ですが、漆は日本の文化の影の立役者と言えると思います。
   

2015年5月22日金曜日

色々な長さの尺八。

   尺八という名前は、一説によると尺八の長さ一尺八寸に由来すると言われています。「一尺八寸」の「一」と「寸」をとって「尺八」というわけです。(このあたりの詳しい話はけっこうややこしいので、また改めて…)
   実際に演奏でもっともよく使われる尺八は一尺八寸管と言われる最低音(五つの孔を全て閉じて鳴る音)がD音(レ)のものです。またこれ以外にも、一尺八寸より長いもので二尺三寸管あたりから、短いものでは一尺三寸管あたりまで一寸刻みの長さの尺八があります。一尺六寸管(最低音がE音)、長い二尺三寸管(最低音がA音)などは一般的に良く使われます。有名な『春の海』は一尺六寸で演奏されますし、二尺三寸管はアンサンブルでの低音を受け持ったり、また本曲と呼ばれる尺八の古典のレパートリーを演奏する場合に用いられたりします。尺八は五つの孔しかなく、尺八の長さによって演奏しやすい調が違うので、長さの違う尺八に持ち替えて演奏しなければならない場合があります。また、民謡などの伴奏では歌手の声の高さに合わせて調が決まりますから、様々な長さの尺八が必要になってきます。

  尺八とは言え『一尺八寸』とは限らない…『一尺六寸』でも『尺八』です。

2015年5月5日火曜日

尺八は乾燥に注意!

    
    尺八は丈夫…といっては語弊がありますが、とてもシンプルな構造ですから丁寧扱っていれば壊れることは少ないと思います。ただし、中継ぎと言われる上下のジョイント部分、それから薄いエッジのある歌口は壊れやすいので扱いに注意が必要です。フルートのようにキーシステムがあるわけではないので、布製や革製の袋に入れてコンパクトに持ち運びが出来ます。尺八用のハードケースもありますが、一度に色々な長さの楽器が必要な時や、延管(ジョイント部分で二つに別れない)の尺八を持ち運ぶ場合によく利用されていますね。

   さて、物理的な衝撃よりも尺八の一番の大敵は『乾燥』です。冬場は特に空気が乾燥しますし、さらに暖房が追い打ちをかけるように室内はカラカラになりがちです。尺八は自然の素材である竹で出来ていますから極度な乾燥には弱く、ひびが入ったり、最悪の場合は割れてしまったりします。修理は可能ですが以前とは鳴り方が変わってしまったりします。

   実は家に誰も吹かない尺八があって…という方は乾燥には注意して(ビニール製の袋に入れる、暖房で暖かくなりそうな場所には置かない…など)保管してあげてください。
  

2015年4月26日日曜日

尺八を始めるきっかけ。

   尺八を演奏をしていてよく聞かれるのは『どうして尺八を始めたのですか?』という質問です。

   習い事の定番のピアノ、部活動で触れる機会のあるフルートやサックスなどの吹奏楽器、あるいはポップスなどで活躍するギターなんかと比べると、尺八は実際に生の演奏を聴いたり楽器に触れるチャンスが少ないかもしれません。

    尺八を始めるきっかけとしては、
1、家族や親戚が尺八や箏などを演奏している、または教えている。
2、近所にたまたま尺八の先生がいた。
3、学校、大学で邦楽部や邦楽サークルに入る。
4、CDやテレビ、ラジオなどのメディアを通して尺八を聴いて興味を持つ。

などが挙げられそうです。
   
    自分の場合はパターン1のバリエーションでしょうか。趣味で民謡を歌っていた祖母の知り合いに尺八を教えてくれる先生がいたことがきっかけになりました。

     きっかけは何であれ、一度尺八を始めればその魅力にどっぷりはまってしまう人は多いようです。

    

    

   



2015年4月11日土曜日

『春の海』とヴァイオリン。

     おそらく箏と尺八の音楽ではもっとも日本人に馴染みのある『春の海』ですが、作曲された当初は意外なことに宮城道雄の家族には不評だったようで『出だしの尺八のメロディーが俗っぽい』…などと言われたそうです。

     そんな『春の海』ですが、作曲から約二年後、宮城道雄とフランスの女流ヴァイオリニスト、ルネ・シュメーによって演奏され好評となり、また二人の演奏によるレコードも作られ大ヒットし、国外でも発売されました。今でこそ日本の楽器と洋楽器の演奏は当たり前になりましたが、それが昭和7年の事ですからその先進性に驚きます。

   その当時、フランス人のヴァイオリニストが『春の海』を演奏したいと思ったのは、宮城道雄の作品が日本的な抒情を表現するだけでなく普遍的な音楽としての魅了を備えていたからだと思います。現在でも箏・尺八奏者にとって重要なレパートリーであることは言うまでもなく、ヴァイオリンやフルートなどの洋楽器によって演奏され、多くの人に受け入れられていることがその証明だと思います。
  
     

     

    

2015年4月10日金曜日

尺八といえば…あの曲?

    一口に尺八の音楽と言っても演奏されるジャンルは様々です。虚無僧が吹いていた『本曲』と呼ばれる古典、箏・三絃(三味線)と合奏する『三曲』、民謡、詩吟、現代的音楽、ジャズ、ポップス…などなど。
    そんな中で、おそらく一番多くの人に知られている曲は箏と尺八の二重奏『春の海』ではないでしょうか。タイトルを聞いて分からない人も、出だしの箏のフレーズを聴くだけで「ああ!お正月によく聞く曲!」と分かってもらえると思います。
   作曲者は宮城道雄。お箏の名手であり、また作曲でも現代に残る名曲を多く残しました。昭和5年の勅題(歌会始のお題)『海辺の巌』に因んで、その前年昭和4年に作曲されました。宮城道雄が実際に旅した広島県の鞆の浦の印象をもとに、春の長閑な内海の雰囲気、波が岩に砕ける様などが表現されています。
   お正月になるといたる所で流れている『春の海』ですが、尺八の人間国宝である青木鈴慕先生の録音が使われている事が多く尺八吹きとしてはつい聴き入ってしまいます。



尺八といえば、あの音?

   尺八と聞いてどんな音を思い浮かべますか?

   時代劇などで効果音的に使われる「ブフォーーッ」と鳴るあの音を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。息の音を含み、かすれたようなこの音は『ムラ息』という尺八の奏法から生まれるものです。とても印象的な音ですよね。
  しかし、尺八の演奏にとってムラ息は特殊な奏法なので、年がら年中ムラ息を吹いているわけではありません。やはり基本はなめらかな音を出すことです。もともと尺八の古典の音楽に出てくるムラ息ですが、そのインパクトは海を越えてフルートの現代的な奏法にまで取り入れられています。